※掲載情報は執筆時点のものであり、制度内容は変更される場合があります。また、本事例は事業者の体験に基づくものであり、申請結果や補助金額を保証するものではありません。申請をご検討の際は、窓口で最新情報をご確認いただく事を推奨します。
支援がもたらした変化
課題
大きな課題は、販売先の減少。
まずは法人。震災で大口の納入先が廃業するなどで減少した。震災後に増えた分もあるが、元には戻っていない。
個人のお客様も、古くからの常連の方にアナログなやり方で発送してきたが、高齢化などで減少が続いている。
地元のお客様も人口減少が続いている影響で、店舗での販売量が減っている。こちらも厳しい状況。
将来的には事業が縮小していくしか道はないのかもしれないが、私の商売は外に向かって物を送ることができる。外向けの販売が現状から1割、2割でも売り上げが上がってくれば十分で、まずはスタートしようと考えた。
選択と決断
震災後の資金繰りを興能信用金庫に相談した際、「今後のこと」という話になった。
その中で、副業人材の提案を受けた。最初は「全く乗り気ではなかった」。
自分自身もそういうことの経験もしてないし、そういうネットの環境にも全く興味もなく使ったこともなかったし、自分の中では土俵に乗ってない話だった。
でも、興能信用金庫さんと話をする中で、面談することを決めた。「一次審査は興能信用金庫側で行うので、残った3名と話をしてみてください」ということで、その中の1名を副業でうちの店の担当をしてもらうことにした。
興能信用金庫さんの事業なんで、金銭的な負担が少ないのも大きかった。正直、経費が上がっている中で必要な資金が大きかったら二の足を踏んでいたと思う。
副業人材の人と話すなかで、2つ提案を受けた。
①Instagramで認知を強化
②店のホームページ作成
今はスマホで全部完結する時代だが、ホームページに載せている電話にかけてくれてもいいし、DMでもいい。そんな感じでいきましょうと。Instagramで投稿することで季節感を感じてもらうこともできる、そんな話をした。
販路拡大をどうするか
従来からの販路だけで事業を営む
- •やり方を変えない
- •大口顧客がどうなっていくかはわからない
- •地元は人口減少が続いている
ネットでの情報発信を強化し、外向け販路の拡大を目指す
- •Instagram、ホームページで発信
- •デジタルの知識ほぼゼロ
- •金銭的負担はほぼなし
決め手:
一人目の方と話して「あ、なんか話しやすいもんやな。割とこっちの立場も分かってくれながらやれるもんねんな」と思った。「紙子さん、そんなの無理だよ」とか「意味ないよ」って、自分の生きてきたなりわいを否定されるような言い方が一回でもあったら、やめてやろうと思っていた。「俺には俺の生きてきた自負がある、お前ら魚を見て何がわかる」ってくらい妥協はしたくなかった。
行動と変化
副業人材と2週間に1回Zoomで打ち合わせ。
よかったのは、一度能登に来てくれたこと。2日間ずっとお店にいたり、一緒に市場に行ったり、能登の風景を写真撮ったり、能登の被災地を見てもらったり。夜も一緒に晩酌して、酒を飲んだりして話をした。
床も半分に割れてて天井も全部見えている。これでも一部損壊にしかなってない。この建物の環境とか店の環境とか、今の仮の施設での環境も全部見てもらえた。それで空気感が一緒になれたのがとても大きかった。
最初にチラシを作成した。最初は私が真ん中にいる写真だったが、「この魚が鮮度がいいっていうのは色つやでわかってもらうようにしたい。これだと、能登らしさは感じられないと思うんですよ。だからブリとかにしませんか」と提案。ブリの写真をLINEで送った。
文章も、どんな気持ちでやっているかとか、何を一番気にしながらやっているかを飲んでる時に話していたことを文章化してくれた。
うちの写真はいらない、能登で魚屋をやっていることがわかればいい。石川県の形があって、でも宇出津の場所しか書いていない。そんなイメージでお願いしたらちゃんと作ってくれました。
チラシに余白があるのも、発送のときに私が一言書けるようにということでお願いしたら、違和感なく作ってくれた。
Instagramに投稿する写真の撮り方も教えてもらった。
「角度や光に注意して、必ず日付を入れてください」
「見た人が、これが12月の魚、2月になってこんなに魚が変わったってわかるように」
「魚の顔は全体か、顔に寄ってください。刺身を作って投稿とするときは、ワサビの小袋みたいなのは取ってください」
そんなに難しいことでないが、しっかりメモして、投稿を工夫するようにした。
私みたいなデジタルの知識がなくてもできた。逆に「これくらいなら自分でもできる」がなかったのがよかったと思う。言われたことを素直に吸収できたことと、副業人材の方が自分の思いを汲み取ってくれる人だったことの2つがうまく嚙み合った。
申請する人が直面しやすい『実務の壁』
デジタルの壁(知識ゼロ)
アナログの世界で事業をしてきて、ネットの環境にも全く興味がなく、自分の中では土俵にも乗ってない話だった。
コストの壁(今以上経費を増やせない)
経費が増えていく中、売り上げは上がらない。いくら今後のために必要なことでも、大きな投資はできない。
コミュニケーションの壁(話が通じる人と出会えるか)
事業を手伝ってもらうというとき、形ばかりにこだわってしまうと難しいかもしれない。一緒にお酒を飲んだり、打ち合わせでも仕事の話ばかりじゃなく、バカ話もする、そんな感じで一緒にやっている感じがあるとよい。
壁の乗り越え方(要点)
▼ こうやって乗り越えた
- •知識がないことで、逆に素直に知識を吸収して実行できた
- •副業人材が商品に関する知識を持っていた
- •普通の会話の中でお互いを構築し、”一緒にやっている感じ”を作れた
- •副業人材が一度能登に来て、現場や、被災地を見てくれた
現在から未来へ
多くの人が事業を畳んでいる中で、やろうと思ったことがまず一つよかった。私みたいな小さな事業者でも復興の一助になれればという思いからスタートしている。ただ、過大な投資ができる状況ではないし、期待もそこまではしていなかった。今回、副業人材に恵まれたことで、一つずつ形になっていくことがうれしい。
今後は店舗での対面も行いながら、各地への発送も増やしていきたい。
魚を販売する環境は震災後一段と厳しくなっていると思う。水揚げされた魚がそのまま金沢方面に運ばれている状況で、競りにかかる数量そのものも激減してしまった。漁師さんからすると、能登での価格と金沢に持って行ったときの価格と比べれば当然の話ではある。漁師自身の生活や、従業員へ給料を払わないといけない。
流れを逆見向きにするのは難しいが、少しでも流れを止めたり、能登の方が価格が付いたり、観光客がその日に獲れたものをその日の昼から食べられるとか、そういうことがブランドになっていくと思う。
再起の裏側:信用金庫担当者の声
「信用金庫単独ではできない包括的な支援」
今回、紙子鮮魚様には興能信用金庫を実行団体とした休眠預金活用事業を活用いただきました。具体的には、奥能登2市2町の事業者のなりわい再建支援です。なりわい再建と言っても様々な手段がありますが、今回は副業人材に入っていただくことになりました。 仕組みとしては、提携先が行っている副業人材バンクに対して求人を出し、応募された方の中から面談で選考を行い、入っていただく流れです。
「事業者さんの負担は最低限に」
能登の被災事業者は、人口減などにより売り上げが減少している方も多い状況です。その中で経費を増やすのは厳しいので、副業人材の業務委託費は休眠預金の事業から出しています。求人も提携先で作成いただけるので、事業者さんの費用面・実務面における負担は最小限に抑えられています。 副業人材の選考ですが、事前に興能信用金庫で数名に絞り込んでから行うので、面談回数も少ないです。入っていただく副業人材の方は業務委託契約の形になっています。月に20時間を目安に、基本はオンラインで、能登に来て対面というのも内容に応じて実施いただいています。 副業人材の職種は様々です。商品のパッケージデザインを考えていただいたり、経営改善や、紙子鮮魚様のような販路拡大など、事業者さんとの会話を通じて一緒になって対象の人材を考えていきます。
「能登の事業者への継続した支援」
今回の人材支援は休眠預金活用事業なので、2026年2月末で区切りとなります。以降は、他で行われている仕組みをご案内するなどの活動を継続していく予定です。 能登半島地震から2年が経過し、なりわい再建のフェーズが事業の持続化へ変化してきています。人口減や原材料価格の高騰などの事業を継続していく上での構造的な課題が顕在化しており、これまでと同じ事業形態では継続が困難な事業者さんも多いです。 紙子鮮魚様のように、これまでやってこなかった新たな取り組みにより、能登に根差した小規模事業者が持続的に事業を営み、地域が活性化していくことにつなげていきたいです。
## 今回活用した制度
副業人材マッチング(興能信用金庫・休眠預金事業)
休眠預金を活用した事業。興能信用金庫が事業者の困りごとをヒアリングし、パーソルキャリアやみらいワークスなどの副業人材プラットフォームから候補を絞り込み、面談を経てマッチングする。
小規模事業者持続化補助金(災害支援枠)
小規模事業者が経営計画を作成して取り組む販路開拓や生産性向上の取組を支援する制度。
✍️編集後記
信用金庫とタッグを組んで、副業人材による販路拡大に結び付いた事例。休眠預金の活用事業を利用したことで、経費も最低限としながら新しい取り組みができるという、被災事業者にとって非常によい仕組みになっていると感じた。
副業人材と実際に行ったことは、デジタルを活用しつつ販路を拡大するという取り組みだが、社長のやる気やこだわりと、副業人材の提案がマッチしたからこその形となっていた。
事業自体はまだ始まったばかりで、これからより進んでいくものだが、このような形で事業者への支援が実を結ぶ取り組みが増えていくことが地域活性化に繋がっていくのではないかと思う。
能登百業録 編集部
河野 孝史
